酵素とは?

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ここまで、薬の作用を考えるうえで受容体の重要性について触れてきました。次は、酵素の重要性です。酵素というのは、イメージとしては「ある物質を他の物質へと変換させる工場」のようなものです。酵素が働くと、新たな物質が生まれます。

痛み止めの薬(鎮痛剤)を例に挙げましょう。私たちは怪我をすると痛みを感じますが、このとき、なぜ痛みを感じるのでしようか。その理由はシンプルで、私たちの体の中には「痛み物質」が存在しているからです。

ということは、この「痛み物質」を無効化してしまえば、痛みを抑制することができるはずです。つまり、痛み止めの薬は、「痛み物質」が作られないような働きをするのです。

一方、「痛み物質」が存在するということは、「痛み物質」を作る酵素があるということです。痛み止めの薬は、この酵素を阻害することで痛みを鎮めます。これが、痛み止めの薬である鎮痛剤のメカニズムです。

この「痛み物質」はプロスタグランジンと呼ばれています。私たち薬剤師の間では鎮痛剤のメカニズムを説明する際、「プロスタグランジン産生を抑制し、痛みを鎮める」と表現しますが、言い方を変えれば、「酵素の阻害によって痛み物質が作られる過程を抑制し、痛みを鎮める」ということです。

高血圧治療薬の場合はどうでしょうか。「血圧を上昇させる物質」に、アンジオテンシンⅡという物質があります。

このアンジオテンシンⅡの働きを抑えることができれば血圧を下げることができます。その一つの方法は、アンジオテンシンⅡが受容体に作用しないように阻害薬を投与することです。たとえアンジオテンシンⅡが存在したとしても、あらかじめ受容体を阻害しておけば作用することはありません。

もう一つの方法は、「アンジオテンシンⅡが作られないようにする」というものです。そもそも、血圧上昇に関わるアンジオテンシンⅡが新たに合成されなければ、血圧が上がることはありません。

アンジオテンシンⅡは酵素によって作られます。つまり、酵素を阻害すれば新たなアンジオテンシンⅡは生成されなくなり、血圧を下げることができるようになります。

酵素には「新たな物質を作り出す」という働きがあります。酵素によって作り出される物質が「痛み物質」の場合、この酵素を阻害する薬が痛み止めの薬となります。

酵素によって「血圧上昇に関わる物質」が作り出される場合、この酵素を阻害する薬が血圧を下げる薬になります。これが、酵素阻害によって薬が効果を表すメカニズムです。

このように、薬が受容体や酵素に作用するメカニズムを知ることができれば、「なぜ薬が作用するのか」を理解することができます。これらを踏まえたうえで、「病気を発症する理由」について考えてみましょう。

(続く)

受容体の「オン」と「オフ」

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薬は受容体の作用を「強める」か「弱める」のどちらかの働きをします。

「薬によって受容体の作用を弱める」場合というのは一体どういうケースでしょうか。ここでは鎮痛剤を例に挙げましょう。神経の損傷によって体に痛みが表れているときというのは、痛みに関わる受容体が過剰に興奮している状態だということです。そこで薬は、この痛みを引き起こす受容体を遮断します。これが神経痛の軽減につながります。

このように、薬は基本的に受容体を「強める」か「弱める」か、つまり「オン」にするか「オフ」にするか、話を単純化すればこの二つの役割だけで考えることができます。

薬と受容体の関係をより詳しく知るために、次に、「眠気を誘う薬(睡眠導入剤)」と「血圧を下げる薬(血圧降下薬)」についてみていきましょう。

脳が活動していないときというのは、「脳の活動を鎮める物質(眠りを引き起こす物質)」が分泌されています。それによって脳の機能が抑えられ、私たちは夜になると眠りにつくことができます。そして、睡眠導入剤も同じように、「脳の活動を鎮める物質」を分泌させることで眠気を誘います。

このとき、薬は「脳の活動を鎮める物質」の分泌に関わる受容体を「オン」の状態にします。これを、「受容体を活性化させる」といいます。この、睡眠導入剤が作用する受容体は「ベンゾジアゼピン受容体」と呼ばれます。ベンゾジアゼピン受容体が「オン」の状態、つまり活性化されることで、「脳の活動を鎮める物質」が多量に放出されるようになります。これが、睡眠導入剤が眠りを引き起こすメカニズムです。

では、「受容体を弱める」とはどういうことでしょうか。血圧を例に挙げます。血圧が上がる理由にはさまざまな要素がありますが、その一つに「血圧を上昇させる物質」の存在があります。この、「血圧を上昇させる物質」が受容体に作用し、「血圧を上昇させろ!」という指令が発せられるのです。血圧というのはこうして上昇します。

ただ、たとえ「血圧を上昇させる物質」が存在したとしても、この物質が受容体に作用しなければ血圧は上がりません。そこで、「血圧を上昇させる物質」が受容体に作用しないように、あらかじめ薬によって受容体をブロックするとどうなるでしょうか。

受容体は薬によって阻害されているため、「血圧を上昇させる物質」は受容体に作用することができません。これによって、「血圧を上昇させろ!」という指令が出なくなるのです。

血圧上昇に関わる物質に、「アンジオテンシンⅡ」と呼ばれる物質があります。この物質が受容体に作用する過程を阻害すれば、血圧を下げることができるはずです。受容体の作用を弱める「オフ」の状態にして、高血圧を治療するのです。

阻害薬のメカニズムというのは、これとすべて同じです。これが神経痛の治療薬であれば、「神経興奮によって痛みを発生させる受容体」を抑制することで、神経損傷による痛みを鎮めることができます。抗アレルギー薬であれば、「アレルギー反応を引き起こす受容体」を阻害することで、アレルギー症状を抑えることができます。このように、どの受容体に作用するかによって、得られる薬の効き目も異なります。

(続く)

受容体と酵素

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「薬は体の中のどの部位に、どのように作用するのか」を理解するためには、「受容体」と「酵素」について学ぶ必要があります。

私たちが日常生活を営むうえで、さまざまな「シグナル」が脳から発せられています。例えば、食事をすると自然に唾液が出てきますが、これは、食物を口に含むことで「唾液を分泌しなさい」と働きかける物質が脳から発せられるためです。

これと同じように、「手や足など体を動かすとき」や「頭痛などの痛みを感じているとき」「花粉症などのアレルギー反応が起こっているとき」など、私たちのすべての活動にはシグナルが関わっています。

そして、この「シグナルが作用する器官」が受容体です。受容体に作用することで情報が伝わり、「手を動かす」「痛みを感じる」「アレルギー反応が表れる」などが起こるようになります。

薬も、これと同じように受容体に作用します。これによって、さまざまな作用を発揮します。

そして、薬はこの受容体の作用を「強める」か「弱める」のどちらかの働きをします。

「手を動かす」「痛みを感じる」「アレルギー反応が表れる」についても、「強める」か「弱める」かによって薬の作用を説明することができます。

例えば、「手を動かすことができない」など、体を動かすことが不自由である人なら、手や足を動かすことに関係している受容体を活性化させることで体を動かしやすくします。つまり、受容体の作用を薬によって強めるということです。

その好例に、パーキンソン病治療薬があります。パーキンソン病とは、簡単にいえば、「体の動きがぎこちなくなってしまう病気」です。

体をスムーズに動かすためには、「運動」に関わる物質が脳から発せられる必要があります。この、「運動」に関わる物質の一つにドパミンがありますが、パーキンソン病の患者には、脳内のドパミン量が少ないという特微があります。

それを解消するために、薬が外からドパミンを補ったり、ドパミンが作用する受容体を刺激したりして、パーキンソン病の症状を改善させます。

これが、「薬によって受容体の作用を強める」という意味です。

(続く)